『DISK』、『ディスク』、『身体機能補佐用装着型電子器具』。 一昔前に開発されたその機器には、大まかにわけて二つの種類があった。 一つ目、直接身体に埋め込んで使用するハードディスク。ABCの3種類があり、それぞれに用途は異なる。 二つ目は、身体の一部となったハードディスクにセットして、そこから様々な機能を引き出すソフトウェア。これも、一般的にディスクと呼ばれる。使えるディスクの種類はABCのハードディスクそれぞれに違う。 カナマ・A・戒史の使用する『ディスク:A』は『感覚(SENCE)』のハードディスクだ。使えるマイクロディスクの大まかな種類は5種。『視覚』『聴覚』『嗅覚』『味覚』『触覚』などにわけられる。 五感の拡張が、『ディスク:A』の役割だ。 例えば『視覚』のハードディスクは目の奥に埋め込まれた拡大レンズの屈折率制御から赤外線探知、超微量光源採取など多岐に渡る機能を有し、マイクロディスクは更にその情報を統合し処理し、脳に送り込む。 『ディスク:A』のハードには、最大二つまでソフトがセットできる。それ以上では、多すぎる情報を脳で処理することが出来なくなる。 『聴覚』のディスクをセットすれば、五十メートル先の溜息も聴こえる。『視覚』のディスクをセットすればそれこそ新聞紙の字よりも繊維の方が目に付く。余計な情報を削除しなければ、精神異常をきたす可能性もあるディスクだ。 戒史の危険察知技能はこれに依存している。『聴覚』機能で物体の動く音を正確に捉え、『視覚』技能で筋肉の動きを観察──先程のように、至近距離から発射される銃弾のタイミングも計れる。 これに対して、タキセ・C・月の装着している『ディスク:C』は『筋力(POWER)』のハードディスクである。 『ディスク:C』は、体の中に埋め込んだ人工筋肉、その内に流れる電気パルスを制御する。結果としては超人的な筋力を生み出す。重機械が体の中に納まっている、と言えばイメージとしては正しい。 これにセット出来るソフトは一つ。Aとは違い、人工筋肉の設定を調節する為にあるディスクだ。力、速度、持久力、耐久性などに、繊維の能力を振り分けるバランスを決める。 力に重きを置くディスクをセットすれば、大人を片手で投げ飛ばすことも容易い。が、その分他の働きは常人並みということになる。 持久力に重きを置けば、42.195キロメートルを全力疾走しても息を切らすことはない。だが、スピード重視のディスクと速さでは比べものにならない。 全て均等に力を割り振ればバランスは良くなるが、それでは一つに特化したディスクにはかなわない。 『ディスク:C』のソフトウェアの選択は難しい。しかし、その時の状況、自分にあったディスクさえ選べば、途轍もなく役に立つ機能だ。 月(Yue)は銃を撃った後の反動を、ほとんど問題にしていない。いくらでも正確に、連続射撃もお手の物だ。電気信号速度を加速させる擬似神経節により、反射神経も飛躍的に向上する。 そう、『ディスク』というのは便利な発明品だった。 しかし実際にディスクを装着している人間は非常に少ない。 ディスクが非常に高価であることも、確かに理由のひとつだ。けれど、簡単に『人間以上』の能力が手に入るとすれば、それは些細な障害に過ぎない。最大の理由は他にある。 ディスクによって失われるものは、金だけではない。 人間の生命を引き換えにすることになる。様々な意味で、である。 一番の問題点は、寿命が縮む事だ。四十歳まで生きられれば幸運である。 身体に相当な負担を強いる手術は、生命の存続に必要な部分を削り落としてしまう。故に、ハードディスクを二つ以上装備するというのは単なる自殺行為に過ぎない。 ただし、ディスクを装備している人間は機械の耐久力を併せ持つ為、普通なら動けなくなる怪我、即死するショックなどを軽減できるという利点はある。 寿命が短くなる他に、生命の質も変化する。 ディスクを装備するということは、人でなくなるという意味に近い。人造人間に近い構造になる。 人としては異常な力を持つ、生物と無機物の間の存在。 結果として与えられるのは、恐れと奇異の視線だ。 よって、ディスクによる人体の機械化は、政府の元で厳重に管理されている。その全ての行動が政府の管理下に置かれ、首から上の目立つ場所に文字を刻印される。月ならC、戒史ならAだ。 故にディスクの装備は、一部の例外を除けば殆ど全て、あるひとつの領域に生きる為のものである。 通称『War profession』――戦争専門職。 俗称『W/P』。 蔑称『化け物』、『人殺し』、『政府の犬』、『無機物』等々。 |
||
→NEXT |
---|