震える手を止めるすべをダレカオシエテくれ。そうすれば楽になれる。
 そう思いながら、戒史は己の銃を手のひらで弄んだ。

 深夜。暗い闇の中。すぐ傍にある他人の呼吸と熱。

「…………」

 ――声が聞こえる。

 銃を握った手を持ち上げろ。安全装置を外して引き金を引け。
 戒史は目の前で眠る金色の髪に触れた。深く眠り込んだ彼女は、微動だにしない。

「…………」

 戒史は引き金に指をかけた。

「…………」

 戒史は紗希のこめかみに押しつけた銃を見据える。指を動かすだけで、いい。
 簡単だ。一瞬で、終わる。ほら。

 もう  終 わ る。

 がつっ

「う、あ……わあああ!」

 戒史は火傷したように銃から手を離して、右手を壁に打ち付けた。
 狂ったように、何度も何度も。皮膚がすりむけ、血が滲んだ。
 涙が頬を伝うのを自覚する。なんて無意味な雫。

「…………うう」

 簡単に出来る。引き金を引く事も。頭を撃ち抜く事も。それが誰であっても。容易い。これ以上ない程に、容易い。
 そうだろう?

 頭の中で声がする。

「…………嫌だ」

 その声に向かって、戒史は懇願した。

 ――もう、それならいっそ。
 殺してくれ。頼むから。……頼むから。

「………………」

 お前の想いが深い程――

「………………」

 戒史はのろのろと銃を拾った。持ち上げて、銃口を己の左目に当てる。液晶レンズは、銃口の温度を伝えない。
 殺してくれ。

「………………」

 目を閉じた。声が嘲笑う。
 お前の痛みは深くなる――殺せ。

 コロセ。

 引き金を引けばいい、簡単だ。
 引き金を引いて、殺すのは──簡単に殺せるのは、一体誰だ?
 銃口が、戒史の頭から離れ、そして。

 勝手に動こうとする手を、戒史は抱き締めるようにして止めた。

「――助けて」

 戒史は冷たい床に突っ伏して、額を擦り付けて静かに慟哭した。
 何も見えない。彼女の眠る寝台に近寄ることは出来ない。

「……俺、は……本当は……どう、したい……?」

 天使など、戒史には全く信じられない。けれど、絶対的な存在が居るなら、願いたいことはある。
 震える手を止めるすべが欲しい。

 引き金を引くこの指を、千切りとって捨ててくれ。










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