……私は忘れるの?貴方を。
 そんなこと、思うだけで、こんなにも苦しいのに。
 一緒にいるって、何度も。何度も。
 貴方の顔が、もう見えないよ。

 忘れるの?
 ねぇ……なら殺してよ。
 私が要らないなら殺してよ……?

 そう言ったじゃない。約束したじゃない。
 離れるくらいなら死んだ方がまし。

「ありがとう」

 ……そうじゃないの?
 忘れるの?

「ありがとう……」

 貴方の声が、もうきこえない。
 貴方の名前を、もう呼べない。

 馬鹿みたいじゃない。
 こんなに、好きなのに。
 別れるなんて、馬鹿みたいじゃない。

 忘れるの……?

 行かないで。
 何でもするからいかないで。
 こんなに、苦しいのよ。

 何でもするから。
 ねぇ。
 貴方を、こんなに愛してる。


「離れるくらいなら死ね、って」


 ねぇ……
 それだけじゃ、いけなかった……?


「言ってあげられなくて、ごめんねー……」




 和草の手が、戒史の頬をなぞって、落ちた。
 黒い蝶が、血ではないもので、濡れていた。











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